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飛砂風中傳
  これも香港で予告を観て、面白そうだなあと思ってた映画でしたが‥‥。

 ヘンなの。

 というのが総合的な感想。不思議なテンポ、奇妙な演出(突然、みんながミュージカルのように歌いだしたりする)の、まるでファンタジーのような非現実な話なのに、人が死んだり殺したりするとこばっかりミョーにリアルなところが印象的でした。殺人シーンこそファンタジーっぽくすればいいのに、めっちゃエゲツないんだもんな。こういうの見ると、残虐師匠の映像ってのは実はポリシーとロマンにあふれてたんだよなあ、などと思ってしまいます。

 お話は、古惑仔モノに無間道をプラスして両方をおちょくろうとしている‥‥のだと思うのだけど、それはあんまり成功してないような。だって、古惑仔のパロディをするんだとしたら、そのために選ばれたに違いない主演の小春とイーキンが、あんなにマジメに演じてたらいかんでしょう‥‥。
 小春は違法屋台を経営する父親がショバ代を取られるのをみかねて、当該黒社会のメンバーになります。ちなみに当該の査FIT人は、パン好きの(と説明するしかないけど、部下にそろってパンを食わせるヘンな人なのですよ)方中信。ちょっと「ボクの最後の彼女」のときみたいなコメディなチンピラ‥‥と思いきや、人を殺すときは容赦なかったりして。
 黒社会の力でレストランのチェーン店を経営し、キレイなヨメさん(葉旋)をもらい、子供は名門小学校へ進学することになって幸せいっぱいの小春だけど、プライムローンうんぬんの影響で、方中信がボスを辞職することになり、代わりにボスに推薦されてしまいます。ボスになったら幸せな家庭も子供の進学も台無し! とばかり、選挙の前に警察に逮捕されようと必死になる小春。しかしいろいろ邪魔をされて、銀行員を焼き殺しちゃったりして(という流れからいって、やっぱりあれは笑うシーンだったんだろうか‥‥)、進退窮まってしまいます。
 一方、小春のボス就任に反対するのはヤク中でレロレロの余安安(こんなキレ女の役をやってる彼女を見たのは初めてです‥‥びっくりした。というより、引いた)。実は余安安の息子は二十歳のときに組織のために警官殺しをして、懲役二十年をくらっていたのが今年、出所することになっていたのです。これがイーキン。しかし彼は獄中で学問に目覚め、フリードマンの経済書を読んで香港大学への進学を目指していたりして。けど、三つ子の魂は四十になっても消えるはずがなく、大学進学を阻止されてカッとなると、平気で人もばっさばっさ殺してしまうんだよなあ、これが‥‥。
 この合間に、黒社会の人々から潜入捜査官とバレバレの刑事さんが出てきて、シュールな無間道パロを繰り広げますが、実はここがいちばん素直に笑えるし、ノリもいい。(けれど彼らもしごく残虐に人を轢き殺す‥‥)
 この映画、終わりが「ちょっといい話」みたいに終わるところが、実はいちばんブラックなギャグに感じたんですけど‥‥たぶん、意図してのことじゃないんだろうなあ‥‥。
| 星野ケイ | 星野ケイ | comments(0) | trackbacks(0) | pookmark |
ノーベル平和賞
  これが日本だったら、慌てて釈放した挙げ句、「逮捕したのは以前の政府だから」だとかなんだとか言い訳しながら英雄のようにまつりあげるでしょうな。
 しかし私が中国政府だとしたら、こうなったら意地でも釈放せんよ。
 ノルウェーも中国の空気が読めなさすぎやろ。
| 星野ケイ | 星野ケイ | comments(0) | trackbacks(0) | pookmark |
銀河鉄道物語
  自分を自分で盛り上げる日のために満を辞して観ないでおいた(大げさな)「銀河鉄道物語」のアニメを見てみました。
 いやー、やはり松本零士を原作にした、少年の立志がテーマの作品というのは気持ちがいいです。たぶん「クイーン・エメラルダス」のOVAを作った人たちが作っているのでしょう。絵もストーリーも、かつての松本世界を再現しようという意気込みが感じられてよろしいです。
 知らない方のために説明すると、この話は銀河鉄道株式会社(そう。株式会社なのですぞ)に所属する鉄道警察の活躍を描く物語です。銀河鉄道は私鉄ではありますが他の鉄道会社が存在していないこともあり、かつての東インド会社や満鉄みたいに、ほぼ国家権力のような力をもっており、鉄道警察もほとんど軍隊のような武装と権限をもっているのです。

 それにしても、主人公の所属するシリウス小隊っつーのは事故車両の牽引やけが人の回収が任務だから、百歩譲って列車の形をしたものに乗っててもいいとして。情報収集が仕事のスピカ小隊や武力を行使するのが仕事のベカ小隊は、隊員が4、5人なんだから何も客車を引いた専用列車に乗って出動しなくていいと思うんですけどね…。

 もうひとつ強烈な感想としては、事故のときの「列車の運行に支障はございませんので、みなさまご安心ください」というアナウンスは信用しちゃいかんってことですね。
| 星野ケイ | 星野ケイ | comments(0) | trackbacks(0) | pookmark |
松山組の男たちよ
 どうして教えてくれなかったんですか、「銀河鉄道物語」のOVAの話を。
私はちゃんと「ジーザス/砂塵航路」のことを教えてあげたのに。
| 星野ケイ | 星野ケイ | comments(0) | trackbacks(0) | pookmark |
海賊の話
  ‥‥を、ずっと考えていたんです。
 なぜって。

 以前、来年の夏のコンセプトを「海賊」にしたいということをここで書いたですよね? 言ってるだけじゃダメなので、何かしようと考えたのです。でもって、コロンブスの卵的なアイディアを思いつきました。
 今まではイメーシする人物のキャラクターやストーリー・コンセプトがあって、それを形にしてみんなに読んでもらうためにお話を書いていたのですが、それをまったく逆転させて

「夏を盛り上げるために、海賊をテーマにしたお話を書き、そこにみんなの好きな人をイメージした登場人物を出す」

というのはどうだろう、と考えたのです。

 しかし、口にするのは簡単でも実行に踏み切るには時間がかかりました。
 なんたって今までは具体的な話を「書きたい衝動」が先にあったのですが、今回はそうじゃなくて、形を先にしてからキャラクターや物語を書かなくてはなりません。しかも海賊。衣装は華やかでステキだと思ってはいても、私はいまだかつて「海賊話」なるものに魅力を感じたこともなければ、そういうものを読んだ記憶もないのです。どうしよう‥‥。

 こういうときに私は、「とにかく資料を読み込む」という迂遠な方法をとることにしています。

 というわけでこのニ、三ヶ月というもの、私はひたすら海賊関係の文献を読み漁っていました。残念ながら映像としては、その年の興行収入ワースト1記録をもつコナン・リー主演の「張保仔」しかありませんでしたが、「中国の海賊」についての論文も読みましたよ。とにかく必死で詰め込んで‥‥それでもなんの話も浮かんではきません。

 そこで必殺技。「原点に還る」。

 アニメっぽいキャラを作るのだ。アニメっぽい物語を考えるのだ。そのためにはアニメを見るのだ。そう自分に言い聞かせて、前述のように「銀河鉄道物語」を見たわけです。‥‥そして私はついに、自分の原点と邂逅しました。

 お待たせしました(ずっと黙ってたんだから、誰も待ってないって)。海賊プロジェクト、始動です。
| 星野ケイ | 星野ケイ | comments(0) | trackbacks(0) | pookmark |
てなわけで「飛魚王子の話」

 イラストを貼りたいのですがどうしてもうまくいきません。ので、キャストを書きます。
アデル=方力甲  ジュダ=おにいちゃん  アーシュラ=徐子珊  ショーン=余文楽
セム=洪天明  ロロ=王祖藍  グイド=海棠さん

              1

 海の────。


 キラキラ輝く水面を遙かに仰ぎながら、アデルは思った。
 ───ああ。俺は死ぬんだ。
 ゆらゆらと。たふたふと。海は優しくうねりながら、アデルの体を優しく揺らす。今はもう覚えていない遠い昔、母のゆりかごに揺られていた、幸せな刻のように。
 アデルはゆっくりと目を閉じた。
 そのつもりだった。
 意識が途切れようとする刹那───ぐいと、誰かが強く腕を掴んできたことに、驚かなければ。
 ハッとして、アデルは目を見開いた。
 白い、細い指。その指が必死にアデルの手首に巻きついていた。小さな手。その手に見合ったか細い腕が、水面から差し伸べられている。ひと一人の体を支えるにしては弱々しすぎるそのたおやかなその腕の主は、しかし、握りしめたアデルの手を離そうとしなかった。
 じりじりと、アデルは海面に引き上げられていく。唖然として、アデルはその辛抱強く強情な細い腕を見つめる。
 そして、ついに。
 カッと強烈な太陽に目を焼かれた。四方八方から押し寄せてきた空気にむせて咳き込んでいる間に、気がつけばアデルは船縁を越えて、生暖かい木の床の上でぜいぜいと息をついていた。髪から服の端から垂れた水が、甲板に水たまりをつくる。
「よかった」
 黒々とした大きな瞳が、微笑みと共にアデルの眼前に迫った。彼女もまた息を切らせ、甲板に尻餅をついていた。
 アデルは信じられない思いでその少女を見つめた。
 花のようだ、と思った。
 陸の世界に咲き乱れる、色とりどりの美しい花を思い出す。はかなげで、しかも強い。しゃんと背筋を伸ばし、太陽に向かって花びらを開いている、花。
 白い細い腕。透き通った肌。乱れて散らばるみどりの黒髪。触ったら壊れてしまいそうなほどに愛らしい、可憐なその姿。この妖精のような少女が自分を海の中から救い上げてくれた、などとは、当事者のアデル自身さえ本当のことには思えない。
 ああ。そして。だからこそ。
 アデルはその少女に────恋をしたのだ。

              2

 海面から顔を出したら、そこは修羅場だった。
「うへえ」
 アデルは思わず首をすくめた。その頭上をかすめるようにして、砲弾が飛んだ。
 というのはアデルの主観においてであるが、それでも、はるか遠くの海面に落下したその砲弾は、強烈な波をアデルに叩きつけてきた。
 逆らわず、波の動きに従う。
 体がぐぐっと押し上げられ、高い波のてっぺんに乗った。一瞬、周囲の全てが視野に飛び込んでくる。水平線の手前には黒光りする立派な軍艦。主砲からも副砲からも黒い煙を吐いている。大砲の根元では士官たちが忙しく次の弾をこめている。
 でもって、アデルの背後には、三本マストのジャンク船。
 真紅に染め抜かれた帆は、砲撃のせいかあちこちが裂けてしまっていた。舳先にも被弾しているようだ。船員が壊れた手すりに取りついて、忙しく炎を叩き消していた。こちらは軍艦よりも近くにあったので、船員の出で立ちもはっきり見てとれた。ははあん、とアデルは独り合点した。てんでばらばらの船員の服装を確認するまでもなく、こいつはまともな船じゃない。
 海賊船。                          そのわりには、とアデルは波の下にもぐりながら首をかしげた。真紅の帆のこの船は、自分たちを誇示するなんの旗も掲げてはいない。この『南の海』の海賊船といえば、それぞれに意匠を凝らした旗をひらめかせているのがお約束なのに。
 また、砲撃が空と海を揺らした。
 今度の照準はさっきのよりも正確だった。鋭い音と共に飛来した砲弾が、メインマストの根元で炸裂した。
 轟音。飛び散るマストの破片。その他いろいろのもの。
 その中で、長い真紅の尾を引いて。
 まるでアデルがそこにいると知っていたかのように、それはアデルのすぐ目の前の海面に落ちてきた。否、それ───といっては失礼に当たるだろう。激しいしぶきをあげて水面に沈んでいく一瞬、アデルはそれを女性と捉えた。真紅のマントをまとった、長い髪の女だ。
「あっ!」
 次の瞬間、アデルは身をひるがえして海に潜っていた。
 彼女ではないか。そんなはずはないと理性で判断しつつも、感情がアデルを尽き動かす。石のように沈んでいく真紅の女を追いかけて、必死で水をかいた。海底に届く前に、なんとか女の腕を掴んで引き止めた。
 やっぱり違う。
 わかってはいても、一瞬がっかりする心は止められない。
 女は、彼女よりもずっと年上のようだった。長身で細面の、きつい面立ちの美女だ。幸い、砲撃のショックで気絶しているので、水はそれほど呑んでいないようだ。怪我もしているようで、たちまちアデルの彼女の周囲に血煙がたちこめた。
 放ってはおけない。
 アデルは女の体を両手で抱え、水を蹴った。
 海面へ。光が縞になって輝く方向を目指して、一気に浮かび上がる。がぼっと空気中に出た。アデルは女の体をできるだけ高く差し上げて、揺さぶった。けれども女は気絶したままだった。
「水を吐かせなきゃ」
 きょろきょろと見回す、までもなく、浮かび上がったのは例の真紅の海賊船のすぐそばだった。できるだけまっすぐ上がったつもりだったが、やはり人を連れていたので方向を誤ったらしい。
 しまった、と思ったのは一瞬だけ。
「こっちだ!」
 上空から鋭い声が降ってきた。
 見上げると、舷側から大きく身を乗り出した男が、アデルに向かって手を伸ばしていた。男といっても、まだ若い。しかも、この男も怪我をしているらしく、差し出した腕も顔も血まみれだ。だが、こんなやつに任せて大丈夫か、などと考えるほどの余裕はアデルにもなかった。
「頼む!」
 ぐっと女の体を差し上げた。男は意外にしっかりした腕で女を受け取った。脚を縄梯子にからめた不安定な姿勢で、じりじりと女を引っ張りあげる。アデルもできるだけ協力した。梯子にとりつき、下から女を支える。
 二人がかりで、なんとか女を甲板へ寝かせた。
 すぐに男は女の胸元を引き裂いた。真っ赤になったアデルのことなど振り返りもせず、両手を重ねてぐっと女の腹を押す。危なげない手つきだった。すぐに、女は大きく息を吸ってから大量の水を吐き出した。
「おい」
 手招きされ、アデルはドキッとする。
「え、あの」
「ぼっとしてんじゃねえ。ほら、こっち来て手伝え」
「はっ、はい」
 勢いに押されてしまった。
 アデルが駆け寄ると、男は無造作に女の体を起こしてアデルの腕に移した。女は苦しそうに咳き込んでいる。慌てて、アデルも女の背を撫でさすった。
 その間に、男は立ち上がって大声を張り上げている。
「航海長、セム! 面舵いっぱいだ、急げ!」
 アデルには誰がセムだかわからないし、甲板では何人もの水夫が駆け回っているし、砲弾は休みなく飛んできてひっきりなしの轟音が響いていたが、男が叫ぶとすぐに船がブルッと振動し、向きを変えはじめたから、指示はちゃんと当人に届いたらしい。
「甲板長! フォアマストだけでいい、副帆を張れ! 他のやつもバタバタしてねえでショーンを手伝え! ずらかるぞ!」
 たちまち甲板の混乱は収束した。何人かが替えの帆を船倉から引きずり上げてくる間に、残りの者がマストへ滑車を取り付ける。その動きの素早さよりも、周囲にはまだ砲弾が雨あられと降り注いでいるというのにいちばん若い水夫でさえ動揺していないことに、アデルは感心の声を漏らした。ならず者の集まりにしては、指揮系統がしっかりしている。
 替えの帆を張り終わったときには、船も指示どおりの向きになっていた。ばふっと威勢のいい音をたてて、帆が風をはらんだ。
「セム! 操舵はグイドに任せろ! グイド、全速退避だ!」
 同じ風を受けて走るのだから、どの船も同じ速度になる───というのは素人の考え。誰が操船するかによって、帆船はびっくりするほど速度に差が出るものだ。アデルもそのことは知っていたが、それにしてもこの船の速度には目を見張った。まるで後ろから泳ぎ自慢の魚たちが船尾を押しているように。もしくは、舳先に何万もの鳥を結びつけているように。波を蹴たてて、すごいスピードで風を間切っていく。
 慌てたように、軍艦が砲撃の数を増やした。けれども操舵手はそのことさえ計算に入れているらしい。海面で爆発する砲弾の勢いをちゃっかり利用して、ますます速度を上げた。
「すげえ……」
 水平線に遠ざかっていく軍艦を見やって、アデルは呟いた。感心のあまり女の体を取り落としそうになって、慌てて背中を支えて揺さぶり起こした。
 女は苦しげに眉を寄せていた。喉の奥でまだゴロゴロと音がしている。それでも腕をもがかせ、自力で身を起こそうとした。
 その手を、さっきの男が静かに押さえた。
「無理すんな、アーシュラ。船室に運ばせるから、少し休め」
 女が悔しそうに何か言いかけたが、再び激しく咳き込んで、水を吐いた。やれやれと肩をすくめつつ、男が手近の水夫たちに顎をしゃくって合図する。すぐに二人ほどが駆け寄ってきた。
 アデルは水夫を手伝って女を抱え上げようとした。けれどもその手は、例の男に止められた。
「ありがとう。あんたはもういい」
「え、でも……」
「ドサクサ紛れに手伝わせちまって、すまなかったな。けど、あんたはもうこの船に関わらないほうがいい。さっきの見たろ? 俺たちの仲間と思われて、あーんなオッソロしい大砲でドカンとやられちまったら、おわびのしようがないからな」
「いえ、僕は……」
「ところであんたはどこのモンだ? 戦闘海域で呑気に水泳の稽古してたわけじゃないだろうが、この近くの漁村にでも家があって、小舟で漁でもしてて巻き込まれたのか?」
「そ、それは……」
「まあいいや。できるだけ近くの港へ送ってやるから……」
「違うんです!」
 ようやく、アデルは男の言葉を遮った。
 これ以上邪魔されないようにと男の腕をしっかり掴み、声を張り上げた。
「僕を……僕を、この船に乗せてほしいんです!」
 男が絶句した。
「……はあ?」
 つりあがり気味の目をまん丸にして、男はまじまじとアデルを見下ろす。間近で見ると彼の顔には、左目の上下にわたって、すごいような古傷があった。これほどの傷を受けて、よく目がつぶれなかったものだ。若くは見えるけれども、この傷からしてもさっきの采配ぶりからしても、この男はかなりのベテラン海賊らしい。軽すぎる雰囲気が気になるけれど、アデルを船に乗せる権限くらいはもっていそうだ。もしかすると彼が船長かもしれない。期待に胸が高鳴った。
 しかし彼はアデルの願いを軽く一蹴する。
「バッカだなあ、あんた。こんだけ巻き込まれといて、まだわかんないのかよ? 俺たちは無法者で、この船は海賊船なんだぜ。そんなもんに乗りたがってどうするよ」
「そんなことわかってます!」
 苛立ちながら、アデルはさらに声を荒らげた。
「でも僕は船に乗りたいんです! いえ、乗らなきゃいけないんです!」
「……ははーん。いわゆる海賊ファンってやつかあ?」
 急にベテラン海賊は、あきれた顔になった。苦笑しつつ、アデルの肩をポンポンと叩く。子供をなだめるように。
「よせよせ。はたで見てるほど楽な商売じゃねえんだ。ましてや、あんたみたいな前途のある若者がやっていい仕事じゃねえ。無法者に憧れる時期だってのはわかるけどな」
「違いますってば!」
 アデルはその手を撥ねのけた。
 海賊になりたいわけじゃなかった。船が好きなわけでもない。けれども、世界を巡るためには自分の足で歩いたり泳いだりするよりも、船に乗ったほうが効率がいいのは自明の理だ。それも漁師の乗るような船でなく、港から港へ航行する船がいい。
 かといって、商船に乗り込む才覚もないし、ましてや軍艦など近づく気にもなれなかった。
 となると、残る道はひとつしかない。
「お願いします! 僕は、僕はどうしても……!」
 アデルは海賊を必死で見つめて、思いのたけを叫びにした。片目に傷をもつその海賊は、しばしきつい目をして、じっとアデルを見つめていた。と、急にフッと片方の唇の端を歪めて笑う。
「しょうがねえな。ま、アーシュラに聞いてみるんだな」
「アーシュラ……って?」
「船長だ」
「えっ」
 アデルは驚いた。
「じゃ、あなたは船長じゃないんですか」
「当たり前だろ」
 男がギョロリと目を剥いて答えた。
「俺はただのヒラ水夫だ」
 その返事にもっとびっくりさせられる。ヒラの水夫にしては、えらくリーダーシップを取っていたように見えたけれど。態度だって大きいし。
 しかし海賊は、アデルの無言の問いには答えなかった。
「船長室はあっちだ」
 肩ごしにひょいと奥の部屋を指さす。
「もうじき船が安全な港に入る。そしたらちょいと休憩モードになるから、そのときに行って聞いてみるといい」
「ありがとう、あの……」
「ジュダ」
 海賊はニヤリと笑った。
「俺はジュダだ。あんたは?」
「あ」
 ドギマギしながらアデルは手の平を服にこすりつけ、その手をジュダに向かって差し出した。
「アデルです。よろしく」
 アデルの手を、ジュダは半分冗談のようにして握った。ごつごつした彼の手には、見かけの若さよりもずっと重量感があった。ベテランなんだ、と再び思わされた。
 そして、これが始まりだ。
 自らの手で選んだ、新しい運命。新しい人生の───。

              3

 船は小さな入江に停泊していた。
 幾つかめの崖を曲がったとたんに、だしぬけに現れた小さな入江だ。こんなところにこんな静かな入江があるなんて、と感心するような場所だった。
 船員たちは三々五々とマストや舳先の修理に取りかかった。そのダラダラした雰囲気を見るだけで、ここが誰にも知られない秘密の入江であるとわかる。
 アデルは船員を手伝おうかと腰を上げた。が、ジュダに顎をしゃくられてぐっと拳を握りしめた。
 船長室に向かう。
 ドアをノックしたら、かすれた男の声がした。
「入れよ。鍵は開いてる」
 アデルはおずおずとドアを開いた。
「あ」
 赤面した。
 そこには意外にも、二人の人間がいた。若い男と女。女のほうはあられもなく諸肌を脱いでいる。しかも、女の背を男が撫で回しているではないか。とんでもないところへ踏み込んでしまった。ワタワタと手を振り、慌てて背を向ける。
「心配すんな。見られて困ることはしてねえよ」
 笑いを含んだ声に呼び止められた。かろうじて足を止めて、そおっと肩ごしに振り返ってみた。
 ほんとだ。
 よく見れば男は、女の背中に薬を塗っているのだった。それも手早く終えて、今は包帯を巻いているところだ。手つきはぞんざいだが、こういった応急処置には慣れている様子だ。さすがは海賊船の医者というべきか。
「あれ? でも」
 男のほうが船医だとしたら、船長は?
 と、問いかけるまでもなかった。大きく息を吐いた女がくるりとアデルを振り返ったからだ。アデルは驚きに息を飲んだ。なぜならそれは、アデルが救ったあの女性だったからだ。
「あなたが……アーシュラ、船長?」
「ヤン夫人、と呼びなさい」
 たちまち、きつい声で叱責された。
「それが私の名前よ」
「し、失礼しました」
 慌てて頭を下げる。
 その姿勢からコッソリ船長を盗み見た。気絶していてさえ厳しく見えた面立ちは、こちらをキッと睨みつけているせいもあってますます恐ろしげである。美人かといわれれば、飛びきりの美人というしかない。けれどもその雰囲気の大部分が、美人という言葉のイメージを呑み込んでしまっている。
 なるほど、この女丈夫なら海賊船の船長くらいは軽く務められそうだ。
 それにしても、ヤン夫人という名前は。それではどこかに夫がいるのだろうか。船を見回した限りでは、この女性に釣り合いそうな男はいなかったようだが。
「何を見ているの」
「えっ。いや、あの」
「あなたが私を救ってくれたことは聞いている。感謝しています」「い、いえ。そんな」
「お礼に何を差し上げたらいいかしら。金銀でも、宝石でも、欲しいものをお言いなさい。私たちは金持ちの外国人の船しか襲わないことにしているけれど、必要なだけのものは得ているわ。あなたの恩に報いるくらいのことはできるはずよ」
 これこそ、渡りに船というやつだ。
 金銀財宝なんかに興味はない。アデルの望みはひとつだけ。それを今、口にするチャンスだった。
「あの、アーシュ……」
 じゃなかった。
「ヤン船長」
 と、きちんと呼びかけたのに。
「アーシュラ」
 身もフタもなくその名で呼びかけながら、無造作にドアを開けて入ってきた者がいる。驚いて振りかえると、ジュダだった。あいかわらずの飄々とした風情で、壁に寄り掛かって腕組みをした。
「そいつの願いはもう聞いたか?」
「いえ、まだ……」
「船に乗せてください!」
 二人の間に割って入るようにして、アデルは叫んだ。
「僕を、この船に乗せてください! なんでもします……いや、あんまりヒドいことはできないかもしれないけど、それでも、できるだけのことはします! 見習い水夫くらいには役にたてるつもりです。だから……」
 船長がすっと片手を挙げたので、アデルもそれ以上は言えなくなった。顔を真っ赤にして、続きの言葉をぐっと呑み込む。せめてもの思いを視線にこめて、必死で船長を見つめた。
「命の恩人の願いだぜ。聞いてやれよ、アーシュラ」
 ジュダが口を挟んだ。船長はキュッと危険に片方の眉をあげたがそれは言葉の内容のためというよりは、あまりに無造作にジュダが彼女の名を口にするからのようだ。けれども船長は、声にだしてジュダを咎めることはしなかった。恐らく彼女も、風のようなこの男に命令することの無駄をよく知っているのだろう。
 かわりに彼女は、船医の肩をそっと押しやった。
「ありがとう、ショーン。もういいわ」
 船医は黙礼して立ち上がった。医療品を詰めた箱をまとめ、ドアに向かう。出口でジュダとすれ違った。ジュダは二本指を振ってニヤリと笑ってはみせたが、ショーンに続いて部屋を出ていくことはしなかった。船長はどう見てもジュダにも出ていってほしそうだったが、この男が無言の要求など聞くはずもない。というか全身で、この成り行きを最後まで見届けると主張している。
 ため息をついて、船長はアデルに向き直った。目のやり場に困ったアデルに気づき、マントを羽織り直す。長い髪の毛をさらりと梳いてから、厳しい声で言った。
「なぜ、この船に乗りたいの」
「それは……」
 アデルは一瞬口ごもり、次にキッと顔を上げた。
 ごまかすのはやめよう。
「探したい人がいるんです」
「───そう」
 それは誰なのか───とは、彼女は聞かなかった。
「この船は海賊船よ。海賊船に乗る、というのがどういう意味か、あなたにはわかっているの?」
「わかっている、つもりです」
 そうとうの覚悟をもって真剣に言ったのに、それを聞いた船長はくすりと笑った。
「わかっているとは思えないけれど」
 苦笑しつつ呟いてから、船長はチラリとジュダに目をやった。振り向いている余裕がなかったので目で確かめたたわけではないが、ジュダは彼女に、頷いてみせたようだ。
 船長も小さく頷いてから、アデルをまっすぐに見つめて言った。「乗りたければ乗りなさい」
「本当ですか!?」
「そして……降りたくなったら降りればいい。ここは、そういう場所。そういう船───」
 一瞬、船長が遠い目をした。厳しいその瞳にふと、柔らかな影が揺れる。もしかしたら───とアデルは思った。もしかしたら彼女も、何かを探しているのかもしれない。だから、小僧っ子の願いを叶えてくれる気になったのかも───。
「来いよ」
 ジュダがニッと笑ってアデルを誘った。
「お前の仲間を紹介してやらあ」

              4

 ジュダが他の者に何を話していたかはわからないが、船長室を出るなりアデルは船員たちにワッとばかり囲まれてしまった。
 どの船員も若かった。そして、ちょっと見には海の荒くれ者と思えないようなお気楽そうな若者ばかりだ。
「俺、セム。航海長」
 中でもいちばん呑気そうな挑発の青年が、ニコニコ笑いながら自己紹介した。腰のサッシュには一丁前に拳銃やらサーベルやらを挟んでいるけれど、どう見てもイイとこの坊ちゃんといった感じだ。「えらっそうに。六分義が読めるってだけのことじゃねえか」
「羅針盤も読めるもん」
 ジュダにくさされ、セムはむくれる。
「わかったわかった。ついでに海図も天気図も読んで、嵐をバッチリ避けて暗礁にも悩まされないような航海の計画をたてられるんだよな」
「そ、それはー、そのー」
「けっ。まったく頼りになる航海長サマだぜ。お前みてえなのが航海長でやってられんのは、グイドの操船のおかげなんだからな。感謝しろよ」
 言われてセムが恨めしげに睨んだのは、いかにも漁師の息子といった感じの日焼けした精悍な面差しの青年である。ああ、とアデルは手を打った。
「じゃあ、君がさっきのすごい走りをやってた操舵手なんだね。まともに張れてる帆がひとつしかないのに、あんなにスピードが出るなんて、本当にすごいや。あんだけ船を上手に扱える人が海賊の中にいるなんて……」
「とんでもない!」
 グイドは手を大きく振って否定のしぐさをした。謙遜するのかと思いきや、どうやら彼が顔を真っ赤にしたのは、アデルの言葉に腹をたてたらしい。
「誤解してもらっちゃ困る! 俺は海賊なんかじゃない!」
「え、でも……」
 現にこの船に乗り組んで、船を操っているんじゃないか。などとまっとうなことを言ったら殴られかねない勢いで、グイドはまくしたてる。
「海賊だなんて、俺を侮辱するなよ! 俺はれっきとした網元の跡取り息子で、ここにこうやっているのは、誘拐されて仕方なく、なんだからな!」
「はいはい」
 どうやらこれも、いつものお約束の会話らしい。ジュダに軽くいなされると、プッとふくれたままグイドは沈黙。他の連中もニヤニヤ笑っているばかりだ。
「俺はコックのロロだよ」
 背は低いがそのぶんはしっこそうな若者がアデルにウインクをよこしてくる。
「あんたはたぶん、俺の部下に配置されるんじゃないかな」
「いや。こいつはショーンに任せる」
 ジュダがそう言ったので、アデルは目を丸くした。船医の助手になれるほど、手先に自信はないのだが。
 けれども、進み出たショーンの自己紹介に、さらにアデルは目を見開く羽目になる。
「俺は甲板長兼水夫長のショーンだ。君にはまず、水夫としての基本的な仕事を覚えてもらおう」
「えっ。でも」
「なんだ?」
「ショーンさんって、船医さんじゃないんですか?」
「ショーンでいいよ」
 そう言ってから、ショーンは肩をすくめた。
「医者のマネゴトは単なるオマケのサービスだと思ってくれ。この船がちゃんとした船医を雇ってくれたら、俺はすぐにでも救急箱を海へ放り込む予定だ」
「ま、そういうわけで」
 どういうわけかは知らないが、ジュダがそんなふうにして話をまとめた。
「お前は俺の同僚になるわけだ。よろしくな、同僚」
「えっ」
「だって俺もお前と同じ、ヒラの水夫だからな」
 みんなのニヤニヤ笑いから判断するに、これもお約束の冗談らしい。しかたなくアデルも、みんなに合わせて曖昧に笑った。
「ところでさ、アデル」
「なんでしょう」
「お前、故郷はどこだ? このへんの村の出じゃねえんだろ。『疾風のグイド』の噂も知らないんだからな」
「え、あの」
 一瞬言い淀んでから、アデルはあやふやに答えた。
「雪の……降る国から、来ました」
「あー、なるほど」
「どうりで優男だと思ったよ」
「色も白いし、上品そうだしね。北の国の男ってのは貴族的な感じの人が多いっていうもんね」
 納得して口々に言う船員たちの中で、アデルは密かに唇を噛みしめ、拳を握る。
 彼女を見つけるまでは、誰にも明かせない。
 自分の故郷が───海である、とは。

 それはアデルが、海の民の禁忌を犯した日。
 否───海の民でなくなった、記念すべき日だった。

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チャレンジだ
将軍とアデルジュダ船長ショーン船員 
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